おでんの話


 季節も秋から冬に変わってきました。日毎に朝晩の気温が下がり、温かいものがほしくなる季節です。こんな夜はアツアツの「おでん」などが恋しくなりますね。

 一般的に「おでん」というと、出汁に大根や練り物などをいれたものをイメージします。最近ではコンビニのレジ近くに必ずおいてあり、人気商品の一つです。出汁のなかに美味しそうなおでん種が湯気とともに泳ぎ、食欲をそそります。でも、本来のおでんは、全く違った食べ物でした。

 そもそもおでんとは、豆腐やこんにゃくなどを串で刺して焼き、甘めの味噌などを塗り上げた「焼き田楽(やきでんがく)」という料理がルーツで、室町時代に考案されたといわれています。その後江戸時代に串に刺したものを鍋で煮た「煮こみ田楽(にこみでんがく)」が考案され、現在のおでんのルーツになりました。現在では煮こみ田楽を「おでん」、焼き田楽を「田楽」と区別して呼んでいるようです。特に煮こみ田楽は江戸で生まれたため、関西では「関東だき(かんとだき)」などと呼ばれています。(「煮る」という言葉は、関西では「たく」といいます)

 そのように、江戸で生まれた「おでん」ですが、おでん種は日本各地でいろいろと特徴があります。たとえば、関西では鯨の皮(ころ)や舌(さえずり)が定番。福岡では牛筋肉の串が欠かせません。また、沖縄では豚足(とんそく=ブタの足)がおでんの味の決め手になっています。
 郷土料理としてのおでんで面白いのは「静岡おでん」です。主役は静岡県の郷土食材である「黒はんぺん」。これはアジやサバ、イワシなどの青魚をすりつぶしてできた、灰色をした練り物です。
 静岡おでんのもう一つの特徴は、おでん種がすべて串に刺してあり、だし汁は牛筋がベースの黒い汁です。食べるときにはイワシやカツオの削り節と青のりをかけます。おでん種がすべて串に刺さっているところは、おでんのルーツである「焼き田楽」に由来しているのかもしれませんね。

 私の好物のおでん種はやはり「大根」。しっかり出汁が滲みた大根にとろろ昆布をかけて食べると、とってもおいしいです。

 あなたの好みのおでん種は何ですか?