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学校長コラム「学校長の一膳講座」

右利き文化の和食

2021年10月18日(月)

 前回の一膳講座で、日本はお箸を横に置くという世界でも例を見ないユニークな習慣があることをお話ししました。実はこのことが日本の食文化においていろいろな点に影響を与えているというお話です。

 お箸を「先端を左に」置くことにより、右手でお箸が取りやすいという状況になります。つまりこの向きにお箸をおくことにより「右利き」の食文化が生まれてきます。すなわち「お箸を右手で持つ」ことが標準となり、主食であるご飯は自動的に持ちやすい左側に置かれます。ここから「ご飯は左」「味噌汁は右」という配置が自然に決まってきます。これが現代の和食作法でも使われています。特にご飯と副菜や汁物を交互に食べる和食では、この配置は重要ですね。

 右利き文化は調理の時にも影響しています。日本料理で使われる和包丁はすべて片刃(刃が包丁の片側だけ)となっています。そのため右利き用と左利き用では包丁の刃の位置が違います。具体的には、お刺身を引く柳葉包丁や、魚をおろす出刃包丁など、右利き用と左利き用ではその使い方は全然やり方が違ってきます。本校では左利きの学生の皆さんが就職後に困らないよう、入学前によく説明をして全員右利きの包丁を使用していただいています。また、すしを提供するときも、右利きの人が取りやすいよう「左上から右下」に斜めにお出しすることが一般的になっています。

 左利きの人は和食料理人にはいないのかというと、そんなことはありません。すしの第一人者として有名な「すきや橋 次郎」の小野二郎さんは左利きのすし職人です。実際にお店に伺ったときに拝見すると、左手で舎利を取り、右手の上にのせてとても起用にすしを握っていいらっしゃいます。でも握ったすしをお客様にお出しするときには、ちょっと手首をひねるというご苦労があるようです。おすしに関しては、まず初めの一貫を真っ直ぐにお出ししてお客様の利き手を確かめ、左利きということがわかれば次からは向きを変えて取りやすくお出しするお店も多いようです。

 実は日本人は左利きが10%程度もいるらしく、世界でも左利きが多いようです。多様性が求められる現在、この右利き文化は良い伝統ではあるものの将来に向けた課題のひとつかもしれません。左利きの方は、配膳されたお箸の向きを直したり、隣のお客様と肘がぶつからないようにしたりと、いろいろとご苦労があることでしょう。美味しいものを頂くときはあまり気遣いをせず、自由に召し上がっていただきたいものです。本校でも調理の時は全員右利きに統一していますが、試食時は自由にしています。左利きの方でも自由に和食を楽しんでいただきたいですね。

お箸の話

2021年09月30日(木)

 私たちがいつも使っている「お箸」。今回はそのお箸に関するお話です。

 食事の時にお箸を使うのは、日本だけではありません。中国や韓国、台湾、ベトナムなどアジア圏では皆お箸を使っています。でも国によっていろいろと違いがあります。中国文化圏のお箸は日本に比べて長いものが多く、全体的に同じ太さで先端が丸くなっています。この長さは中華料理の特徴である「大皿に盛った料理を皆で取り合う」ことも理由のひとつです。材質は硬めの木やプラスチック製が多く、高級なものだと象牙(象のキバ)なども使われています。

 韓国文化圏では金属製のお箸が多く、短めですがやや平べったい形状をしています。韓国ではお箸だけではなく柄の長い金属製のスプーンも一緒に使われます。昔から金属製品を多く生産してきた韓国では、食器類も金属製のものが多く使われています。昔は銀製のものもあり、これらは毒や薬物に触れると変色しやすいので、毒味の意味もあったといわれています。

 日本のお箸は、大人用が平均22.5cm(七寸五分)とやや短めで、先端がとがっているのが特徴です。和食は昔から一人用で提供されることを基本としており、繊細な料理や盛付けをきちんとつかめるためだと考えられています。特に焼き魚の小骨まで取り分けるには、先が細くないと難しいですね。森林資源の豊富な日本の箸は木製が基本で、高級品は漆など日本古来の塗料を塗って装飾などが施されています。

 お箸自体の違いもいろいろありますが、一番の違いは箸の配置の仕方です。中華料理や韓国料理ではお箸を縦に置きますが、日本料理ではお箸は必ず横に置きます。(下の写真を参照してください。)

 なぜ日本だけお箸を横に置くのでしょうか。これにはちゃんと理由があります。

 古来より日本では「食材は神様から頂いたもの」という考え方があります。日本料理の最も古い料理様式は「神饌料理」といいます。神饌料理とは料理をまず神前にお供えし、その後に私たちが頂くという料理様式で、今から1300年以上も前の奈良時代に作られました。このように神様と人々が同じものを食べることを「神人供食(しんじんきょうしょく)」といいます。すなわち目前に提供されたお料理は神様も食べることから、料理と食べる人の間に結界をつくり、料理を神聖な領域内に止め置くことが大切でした。そのために結界の印としてお箸を料理と食べる人の間に横に置くようになりました。お箸を境にして「向こう側は神様と料理を共にする神聖な領域」「こちら側は料理を頂く領域」と線を引いていることになります。

 また、食事をとることは「神様と命を共有する」という行為なので、日本ではそれぞれ「自分の箸、自分の茶碗」を決めておくという食習慣がありますね。このような食習慣を持っているのは世界でも日本だけです。西洋料理のナイフやフォークをはじめ、お箸を使う他のアジア圏でも例を見ないユニークな食習慣だといえるでしょう。

 「お箸を横に置く」ということからいろいろな食文化が生まれてきますが、それはまた次回お話ししますね。

中華料理の食卓
お箸は縦に置かれます


韓国料理でもお箸とスプーンが縦に置かれます

おはぎ

2021年09月09日(木)

 9月の祝日である「秋分の日」は、日本の暦では雑節のひとつである「お彼岸」です。お彼岸とは昼と夜の長さが同じになるこの日を中日(ちゅうにち)として、前後3日間の「あの世へのゲートが開く」1週間のことで、ご先祖様の供養にお墓参りをする習慣があります。仏教行事ですがこれは日本独特の風習です。

 このお彼岸に食べるものといえば「おはぎ」。もち米を蒸かして軽く搗き、邪気を払うといわれている小豆から作った甘いあんこで包んだ食べ物で、皆さんもきっと一度は食べたことがあるのではないでしょうか。おはぎはもち米をお餅になるまで完全に搗かずに、粒が残る程度にとどめます。こういう搗き方には昔から「半殺し」という恐ろしい名前がついています。

 「おはぎ」と同じような食べ物に「ぼた餅」というものがあります。これもおはぎと全く製法が同じで、見た目にも何も違いがないように見えます。実は「おはぎ」と「ぼた餅」は同じ食べ物なのです。

 昼と夜の長さが同じになる「お彼岸」は、春にもあります。3月の祝日である「春分の日」がそうです。この時にも秋の彼岸と同じように小豆餡で包んだもち米を食べます。春は牡丹の花の季節なので「牡丹餅(ぼた餅)」、秋は萩の花の季節なので「おはぎ」と名前が変わるのです。あえて違いをいうならぼた餅は「粒あん」の場合が多く、おはぎは「こしあん」が主流です。これは小豆の旬の季節が晩秋から初冬のため、春のぼた餅は出来立ての小豆を使うので皮まで軟らかくつくれるからです。

 おはぎやぼた餅は夏や冬にもおやつ代わりに食べることがあります。夏のおはぎは「夜舟(よふね)」、冬のおはぎは「北窓(きたまど)」と呼ばれます。この理由は先ほどの「半殺し」にあります。おはぎのもち米は半殺しのためお餅と違って音を立てて搗きません。そのためいつ搗いたのかわりませんね。夜に舟を出すと暗いのでいつ着いたかわからない、すなわち「着き知らず→搗きしらず」。北側の窓には月は出ないため、「月知らず→搗きしらず」という言葉遊びがその発祥のようです。同じ食べ物でも季節によって名前が変わるのは、とても面白いですね。

 地方によってはきな粉をまぶしたり、胡麻をつけたり、枝豆を使った「ずんだ餡」を使ったりといろいろなバリエーションがあります。また最近ではおはぎの専門店も誕生し、様々な食材や形をしたとても美しく美味しいおはぎを売り物にするお店も誕生しています。

 皆さんも9月のお彼岸、3月のお彼岸にはぜひおはぎ・ぼた餅をたべて息災にお過ごしください。

米食と麦食

2021年08月27日(金)

 和食の基本は「お米」です。和食はお米を美味しく食べる料理とも言えますね。それに比べて洋食の主食はパンやパスタなどの「小麦」製品が主流です。今回はこの米食と麦食の食文化を比べてみましょう。

 小麦は畑で作られます。化学肥料などがなかった古代では、一度麦を収穫すると土壌の栄養分がなくなるため、その畑はしばらくお休み(休耕)する必要がありました。そこで古代人は休耕地で羊や牛などの家畜を飼うことを思いつきます。家畜は雑草を食べてくれるし、その糞でまた畑に栄養分が回復するからです。こうして小麦を食べる食文化には家畜の肉や乳製品などが一緒に食べられるようになります。つまり小麦食文化はその起源から肉食・乳製品とセットで進化してきました。これが現代の洋食文化のルーツです。

 それに比べて米は水田で栽培されます。米を作るには水が不可欠です。稲の栄養分は川から引いた水に溶けているので休耕の必要はありません。田んぼにつながる川には鮒や鮎、沢蟹、田螺(たにし)などの水棲生物が一緒に収穫されます。また田んぼの畔にはさまざまな野草が生い茂るため、米食文化は魚や貝類、野菜とセットで進化してきました。この起源が和食に魚や野菜が多く使われる理由の一つと考えられています。

 麦はその粒が小さく、殻をむくことが困難なため、粉にして食されてきました。粉に水などを加えて練り上げれば、パンやパスタ、ピザやうどんなど加工が簡単です。それに比べて米は籾殻を外すのが容易なため、粒のまま調理する粒食が主流になります。また、精米の際にでる米ぬかを漬物の漬け床に使ったり、稲わらで草履を編んだりと、余すことなく使用する知恵が発達してきました。

 日本では約3000年以上前の縄文時代後期から稲作が始まりました。日本人は3000年以上もお米を食べて生活しているのです。パンの起源はもっと古く、約6000年以上前のメソポタミア文明において小麦粉を水で溶いて焼き固める製法が確立し、その後古代エジプト文明ではすでに発酵させたパン作りがされていたようです。

 文明が進化し、どこの国でも何でも食べられる時代になりましたが、私たちの日本人の先祖が3000年以上も米を主食にしてきた記憶は深くその身体やDNAに刻み込まれています。日本では僅か50年前まではほとんどの家庭でご飯が主食の生活をしていましたが、最近では和食離れが進み、ご飯を炊かない家庭も増えています。食生活は人々の健康に直結する文化です。やはり日本人はお米を食べて健康で長寿に過ごせるのではないでしょうか。

 今日は、ご飯を炊いて漬物とお味噌汁の食事をしてみませんか?

麦は粉にして加工します


米は粒のまま調理されます