「江戸・東京野菜」の話

2019年04月17日(水)


 今までこの講座で地方のさまざまな郷土料理を取り上げてきましたが、今回は東京に注目してみましょう。

 日本各地には、その土地柄を反映した食材があります。九条ネギや聖護院大根などの「京野菜」、金時草や加賀れんこんなどの「金沢野菜」などが有名ですね。実は東京にも昔から栽培されてきた特徴的な野菜類がいまも収穫されています。それらを総称して「江戸・東京野菜」と呼んでいます。

 例えば、東日本でお正月の雑煮に欠かせない「小松菜」もその一つです。小松菜の名前の由来には面白い話があります。江戸中期の第8代将軍、徳川吉宗公が鷹狩りに出かけ、小松川村(現在の江戸川区小松川)にある亀戸香取神社で休息をしました。その時、神社の神主が名もない地元の青菜を入れた雑煮を振舞ったところ大変おいしかったので、吉宗公が地元の名を取って「小松菜」と命名したというお話です。現在スーパーで出回っている小松菜は、より茎を太く、葉を大きくするため、新種との交配がされていますが、今でも一部の農家では当時のままの小松菜を「伝統 小松菜」として栽培しています。

 本校がある東京世田谷区にも、「大蔵だいこん」という、江戸時代から続く伝統野菜があります。(写真をご覧ください) 大蔵だいこんは、一般に売られている青首大根に比べて、真っ白で寸胴な大根で、見た目にも大きな違いがあります。その特徴は身質がしっかりしていること。私も一度試食しましたが大根の繊維質が詰まっていてしっかりとした大根で、煮物に使ってもほとんど煮崩れしません。しかも歯ごたえがしっかりあり、おでんの具材などにはうってつけの大根です。この大蔵だいこんは、一度絶滅してしまいましたが、昭和の後半に地元の農家の人が復活させたそうです。

 現在江戸・東京野菜に認定されているのは49種類もあるそうです。それぞれに特徴があり、料理人から見てもとても面白い食材で、日本橋にはこれらの野菜だけでコース料理を提供する店もあります。本校でも今年の授業で「江戸東京・伝統野菜研究会」の大竹代表をお招きして、学生にこれらの食材を使った調理を体験してもらう予定にしています。江戸・東京野菜に興味のある方は、ぜひこちらをご覧ください。

 皆さんも、ぜひ自分の住んでいる地域の伝統的な食材に目を向けてみてください。きっと新しい発見があると思います。

http://www.city.setagaya.lg.jp/kurashi/101/116/302/303/d00019122.htmlより引用

姫路名物「穴子寿司」の話

2019年03月19日(火)


 兵庫県の姫路と言えば、「姫路城」が有名ですね。この城は1346年(室町時代前期)に建てられた名城で、その後何度か改築を繰り返し、現在では国宝や世界無形文化遺産にも登録されています。

 食の分野で有名なのは、「そうめん」。市内を流れる揖保川の上流は国内有数の小麦産地。下流には塩づくりで有名な赤穂(江戸時代「赤穂浪士」の話で有名ですね)があります。この小麦と塩、そして揖保川に流れ込む、金属成分の少ない伏流水(軟水)を使い、「揖保の糸」という有名なそうめんが作られています。また、麦と塩と水は「醤油」の原料。揖保川が流れる播州平野の龍野という町に、淡口醤油で有名な「ヒガシマル醤油」の本社・工場があり、400年も前から醤油作りが盛んにおこなわれています。

 今回姫路を訪問し、もう一つ忘れることのできない食の名物を発見しました。それは姫路の「穴子」です。姫路市と四国、そして淡路島に囲まれた瀬戸内海の「播磨灘」は、穴子の産地として有名で、特に明石海峡と播磨灘の急流が生む良質な砂地で育った穴子は肉厚で臭みが全くなくとても良質です。江戸時代、穴子の産地と言えば、東は「江戸前(東京湾)」、西は「姫路・明石・淡路島」と言われるくらい有名だったそうです。近海でとれた穴子を、地元のヒガシマル醤油を使った煮切りで美味しく焼き上げた「姫路の穴子」は、まさに播州地方を代表する郷土料理だと思います。

 地元での穴子の楽しみ方は「焼き穴子の棒寿司」「穴子丼」「穴子の握り寿司」などがありますが、今回は穴子の身質を比べるため、東京と同じように「蒸し穴子」に調理するお店で、「穴子の握り寿司」を食べてみました。写真をご覧ください。

 大振りの穴子の握りが6貫、お皿の上に載っています(これで穴子1本分だそうです)。やはり地元の淡口醤油を使っているため、色はあまり濃くないようですが、味はしっかりとしていました。その身は肉厚で、ふんわりと口の中でとろける美味しさにびっくりです。江戸前の穴子に比べて遜色なし、いやむしろ江戸前穴子より美味しいと感じました。ただ、シャリ(ご飯)はおにぎりのようで、シャリは江戸前握り寿司が圧倒的に美味しいと思います。私の結論として、姫路の穴子寿司は「穴子の旨さを味わうもの」、江戸前の穴子寿司は「ネタ(穴子)とシャリのハーモニーを味わうもの」という風に感じました。皆さんも姫路周辺を訪問したら、ぜひこの「穴子寿司」を試してみてください。

伊勢名物「伊勢うどん」と「手こね寿司」の話

2019年02月28日(木)


 毎年1月に伊勢神宮を参拝します。外宮に祭られる「豊受大御神(とようけのおおみかみ)」は、神々のお食事を司る神様。その神様に学生たちの料理の腕の上達を祈願するためです。その際、伊勢地方の郷土料理である「伊勢うどん」と「手こね寿司」をいただくのを楽しみにしています。

 「伊勢うどん」は、茹でた太めのうどんにたまり醤油をかけたもので、薬味もネギくらいと、とてもシンプルな料理です。このうどんをいただいて驚くことは、とても柔らかいこと。お箸でも簡単に切れてしまうくらいの柔らかさで、コシの強い讃岐うどんと比べると、全く別の食べ物です。濃厚なタレもやや甘めで、この「柔らかさ」と「甘さ」は、今まで食べたことが無い種類の感覚です。

 伊勢うどんがなぜこんなに柔らかいのか、不思議に思ったのでお店の人に聞いてみました。すると、こんなお話が聞けました。伊勢うどんは、「お伊勢参り」と言って全国から集まる参拝客に振舞われた料理の一つだそうです。電車やバスのない昔は、皆長い道のりを歩いて参拝に来たので体力が消耗し、胃腸も弱っているので、消化に良いように柔らかいうどんを、疲れが取れるように甘めのたれで振舞ったのが始まりだそうです。また、別のお店では、参拝客にすぐ提供できるように、常にうどんを熱湯に入れて茹で続けていたので、軟らかくなった、という話が聞けました。確かに讃岐うどんは15分くらいのゆで時間ですが、伊勢うどんは今でも1時間以上茹でているようです。

 伊勢のもう一つの名物が「手こね寿司」です。これは、カツオやマグロの赤身を漬けにして、すし飯に手でこねるように混ぜ込んだお寿司です。この「手こね寿司」は、伊勢から近い海沿いの志摩のカツオ漁師が船の上で食べていた「漁師飯」が起源だそうです。「手こね寿司」は全国各地の漁師町にありますが、志摩の「手こね寿司」が伊勢神宮の参拝客の間で評判になり、伊勢の名物になったようです。

 カツオやマグロの漬けは、醤油の他にも出汁が良く利いて、ねっとりとした感触がとても美味しかったです。この手こね寿司を一口食べた後、甘めの伊勢うどんを一気に啜りあげると、「伊勢神宮に来たなぁ」という実感がわいてくる、まさに伊勢名物の郷土料理です。皆さんも伊勢神宮に参拝したらぜひ食べてみてください。


「豆まき」の話

2019年02月04日(月)


 今日は「立春」。暦の上では今日から春の季節になります。例年だと「立春」と言ってもまだまだ寒く、まさに「春は名のみの風の寒さ」と歌われた通りですが、東京地方の今年の立春は、4月中旬の暖かさ。ここ数年来なかったことですね。

 立春の前日が「節分」。今年も2月3日が春の節分です。昔から節分というと「豆まき」が恒例行事で、今年もあちこちの寺社仏閣で豆まきの行事が行われました。なぜ節分には豆をまくのでしょうか。

 節分に豆をまくのは、「季節の変り目に現れる邪気を、魔除けの呪力がある穀物の代表である豆で追い払う」という意味があり、室町時代(約700年前)にすでに豆まきの記録が残っています。穀物の代表に豆が選ばれたのは、「豆=魔滅」に通じ、豆が「魔を滅する」という語呂合わせだと言われています。豆をまくときには、「鬼は外、福は内」というかけ声をかけるのが一般的ですが、地方によっては「鬼、外」と言ったり、このかけ声の後に「ごもっとも、ごもっとも」と合いの手を入れたりする風習もあるようです。また、鬼を祭る奈良県の金峯山寺などでは「福は内、鬼も内」というかけ声をかけるそうです。

 豆まきの後に、この豆を歳の数(地方によっては歳の数より一つ多く)食べることで、一年間健康に過ごせると言われています。北海道や東北、北陸、南九州の一部には、炒った大豆の代わりに落花生をまく地方もあるようです。確かにまいた後の豆を食べるなら、その方が衛生的で合理的ですね。

 「全国の渡辺さん、坂田さんの家では豆まきをしない」というのはご存知ですか? 実は、平安時代に先祖の「渡辺綱(わたなべのつな)」と「坂田金時(さかたのきんとき)」という武将が鬼退治をしたという伝説があるからです。そのため、鬼は「渡辺」「坂田」の家には近寄らない、と言われています。確かに、私も小さいころから家で豆まきはした記憶はありません。面白いですね。

 最近は「豆を掃除するのが大変」「掛け声がうるさくて近所迷惑」など言う理由で、だんだん豆まきをする家庭が減っているそうです。せっかく700年以上も続いている風習なので、年に1回の節分くらいは、家々で盛大に豆まきをして邪気を追い払ってほしいものです。

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