「鮎の塩焼き」

2019年07月16日(火)


 皆さんは「鮎」という魚を知っていますか?日本全国の河川に棲む淡水魚で、すでに奈良時代から日本人の食卓に上がっていました。獲ったばかりの鮎は、スイカやキュウリの香りがすることから、「香魚」とも書かれます。また、鮎は1年でその生涯を終えることから「年魚」とも呼ばれています。

 鮎は昔から「夏」を代表する魚として親しまれてきました。現在では全国で6月から漁が解禁されます。この時期から8月くらいまでが稚鮎・若鮎の旬です。9月を過ぎると、産卵のため川を下ります。この頃の鮎は「落ち鮎」と呼ばれ、卵を抱えて大きく太っていて、また違った味わいがあります。

 日本人は弥生時代より3千年以上も米を主食としてきました。米を作るには、水田に川の水を引く必要があります。そのため昔から水棲生物を食材としてきたので、鮎や鮒などの川魚は古くから食べる習慣がありました。鮎については古事記や万葉集などにも記述があり、私たちの先祖も楽しんできた、代表的な夏の川魚です。天ぷらや甘露煮など、様々な方法で楽しまれてきましたが、特に若鮎を一番おいしくいただくのは「塩焼き」でしょう。新鮮な鮎に串を通し、全体に塩をふって炭火で焼きます。美味しく焼くコツは「強火の遠火」。皮は香ばしく、身はふっくらと焼き上げます。

 若鮎はせいぜい5分~10分で焼きあがりますが、本校顧問、奥田先生のお店「銀座小十」では、生きたままの稚鮎に串を打ち、なんと45分もかけて焼き上げます。奥田先生の狙いは、強火の遠火でじっくり焼くことで、鮎自身の脂で頭が「唐揚げ」になり、胴体はまさに「干物」のように美味しさが凝縮。そして尻尾は「燻製」の美味しさが味わえます。稚鮎は本来ならばわずか5分で焼きあがりますが、火加減を調節しながら、まさにギリギリの焼き加減で、美味しさの凝縮を狙った調理法です。この調理法は簡単そうに見えてなかなか難しく、本校の3年生も毎年授業で挑戦しますが、焦がしすぎたり、火入れが足りなかったりと、なかなかうまくできません。

 この稚鮎の炭火焼きを頭からガブっとかじり、よく冷えた黒ビールと一緒に頂くと、鮎の香ばしさや苦み、そして旨味が口の中に広がり、まさに銀座小十でしか味わえない、格別の美味しさです。奥田先生のお店には、毎年6月の「奥田流鮎の塩焼き」を楽しみにしているお客様がたくさんいます。(もちろん私もその一人です)。

 本校では、毎年和食調理科の2年生が、銀座小十で懐石料理をいただく特別授業を行っています。今年も7月から8月にかけて奥田先生のお話とともに、この「鮎の塩焼き」もいただきます。学生の皆さん、一つの料理にここまでこだわりを持つ、料理人の「技と心」を自分の目と舌でしっかりと味わってくださいね。


「卓袱料理」

2019年07月04日(木)


 いままで、長崎名物の「ちゃんぽん」や「トルコライス」のお話をしてきました。とにかく、いろいろなものをミックスして楽しむのが、長崎の風土のようです。ではこれらのルーツはどこにあるのでしょうか。それはどうやら長崎の郷土料理である「卓袱料理(しっぽくりょうり)」のようです。

 卓袱料理とは、江戸時代に長崎で生まれた宴会料理です。当時の正式な日本料理は、肉食の風習がなく、また「本膳料理」のように銘々のお膳が用意されるのが普通でした。ところがこの卓袱料理は、大きな円卓で提供され、皆が大皿の料理を箸でつつきあうという独特の料理です。これはほぼ中国料理の形式です。江戸時代は「鎖国」政策により、海外との交流は一切禁止されていましたが、長崎だけは清国(当時の中国)とオランダの2国と交流を続けてきました。そのため、この卓袱料理は中華風と西洋風、和風がミックスした料理として発展しました。

 今回、私もこの卓袱料理を長崎でいちばん歴史の古い料亭「花月」で実際にいただいてみました。この料亭は、当時の卓袱料理をできるだけ忠実に再現しているお店ですが、料理の中にはお吸い物やお造りといった和食の伝統料理以外に、当時の江戸時代では考えられなかったようなものが提供されています。たとえば、中鉢料理として出される「豚の角煮」。これはまさに中華料理の東坡煮(とうろんぽう)そのものです。また、パスティと呼ばれる煮物料理は、中華風スープに湯葉やすっぽん、お餅などの和食材以外に、フカヒレという中華食材が入っており、その器の上にパイ生地で網をかけて焼き上げる、という西洋料理の手法も取り入れられています。(写真参照)まさに「和食」「中華」「洋食」の折衷料理です。

 江戸時代の正式な料理様式のなかで、こんなに海外の料理を取り入れているのは日本全国の中でも、とても珍しいことです。特に長崎の食文化は、和食の「和」、中華の「華」、オランダの「蘭」の3つを合わせて「和華蘭=わからん」料理という面白い名前がついています。この精神が、今までお話ししてきた「ちゃんぽん」や「トルコライス」という、異文化を掛け合わせる独特な食文化のルーツなのかもしれませんね。皆さんも長崎を訪問したら、ぜひこの「和華蘭」食文化に挑戦してみてください。

江戸時代の「卓袱料理」再現


「和華蘭」料理の代表格 「パスティ」
これも立派な日本料理です。

長崎新名物「トルコライス」

2019年06月28日(金)


 前回は長崎名物「ちゃんぽん」のお話をしました。その名の語源通り、いろいろな食材を「ちゃんぽん=混ぜる」する料理で、すでに100年以上の歴史があります。この精神を受け継いだ長崎の新名物に「トルコライス」というものがあります。今回は、このご当地B級グルメ「トルコライス」をご紹介します。

 私が食べたトルコライスとは、ピラフ・とんかつ・スパゲティナポリタンの3種類の料理が一皿に盛り付けられ、おまけにとんかつの上からカレールーをかけた料理です。野菜サラダまで添えてあり、とても欲張りで、かつボリュームのある一皿でした(写真を見てください)。一見してすべて洋食の組み合わせですが、よく考えるとピラフもとんかつもカレーも、その起源は洋食ですが現在では和食の一部となっている料理です。また、スパゲティナポリタンも、日本人が考案した料理です。とにかく、日本人になじんだ洋風和食のワンプレート料理がトルコライスの正体でした。

 ではなぜこの料理は「トルコライス」という名前になったのでしょうか。地元のいろいろな方に伺いましたが、諸説ありすぎでよくわからないのだそうです。ただ一つはっきりしているのは、ヨーロッパにあるトルコ共和国とは何の関連もない、ということ。かつて長崎観光協会の方がこの名前を正式に認めてもらおうとトルコ大使館を訪問したところ、「そもそもイスラム教人口の多いトルコでは、豚肉は食べないので公認はできない」といわれたそうです。

 私が一番驚いたのは、「トルコライスの料理の組み合わせが無限にある」ということでした。ピラフ以外にもバターライスや炒飯でも良いし、とんかつ以外にも牛カツやチキンカツ、ステーキもあります。スパゲティもミートソースやカルボナーラなど、なんでもありだそうです。お店によってはピラフとカレーを合わせてドライカレーにしているところもあります。とにかく「ごはん」「肉」「パスタ」であればなんでもよいとのこと。なぜこんな料理が生まれたのか、地元のお年寄りに伺うと、「長崎は鎖国の時代から中国やオランダなど諸外国と唯一交流していた町。そのため、昔から既成概念にとらわれず、いろいろな違ったものを混ぜ合わせることが得意な『新しいもの好き』な風土がある」のだそうです。前回ご紹介した、いろいろなものを混ぜる「ちゃんぽん」の精神が、現代でも息づいていることを感じました。

 皆さんなら、どんな組み合わせのトルコライスを作りますか?

九州でいちばん古い喫茶店「ツル茶ん」のトルコライス

長崎名物「ちゃんぽん」

2019年06月20日(木)


 長崎の郷土料理のひとつに「ちゃんぽん」と呼ばれる中華麺があります。海鮮や豚肉、かまぼこなどを野菜と一緒に炒め、鶏がらスープと麺を加えて煮込んでつくる麺類です(写真を見てください)。最近ではちゃんぽんの大手チェーン店もあるので、東京でも食べられるようになりました。皆さんの中にも食べたことがある方がいるのではないでしょうか。

 この「ちゃんぽん」という言葉の語源をご存じですか。ルーツは中国語で「混ぜる」という意味の言葉のようです。ちゃんぽんは「肉・海鮮・野菜などいろいろな具材を混ぜてつくる」というところからこの名前が付いたようです。確かに食べ物以外でもいろいろなものを混ぜるときに「ちゃんぽんする」などと使うこともありますね。特にビール、日本酒、ウィスキーなど、いろいろなお酒を混ぜて飲むときにも、この「ちゃんぽん」という言葉が使われることがあります。「ちゃんぽん」という言葉は、長崎のお隣沖縄県の郷土料理「チャンプルー」とも語源が一緒のようです。

 この「ちゃんぽん」が生まれたのは今からおよそ120年前、明治の中期頃です。中国福建省から長崎に来て「四海楼(しかいろう)」という中華料理店を始めた「陳平順(ちんへいじゅん)」さんが、同じ中国からきていた留学生たちに栄養のあるものをおなか一杯食べさせたい、という気持ちで考案したといわれています。この「ちゃんぽん」は大正時代には長崎名物として、とても有名になりました。ちゃんぽん発祥の「四海楼」は現在でも長崎市内で営業しており、多くの観光客でにぎわっています。

 ちゃんぽんのスープは白濁しているので、よく「豚骨スープ」と間違われるようです。これは通常の中華麺との作り方の違いによるものです。普通の中華麺(ラーメン)は、麺とスープは別々に作り、スープに茹でた麺を入れ、具材を載せて完成させます。そのため、鶏がらラーメンは醤油味でも塩味でも澄んだスープになります。ちゃんぽんは、まず各種の具材をしっかり炒め、そこに鶏がらスープと麺を入れて強火で煮込んで作ります。そのため、具材のエキスがスープに溶け出して白濁するそうです。この炒めた具材とスープに餡をかけ、麺の上にかけた料理が「皿うどん」という、もう一つの名物料理です。皿うどんは、茹でた太麺、細麺、油で揚げたぱりぱりの麺など、いろいろな種類があります。私の好みは「揚げた細麺」です。パリッとした触感と、旨味にあふれた餡が混ざり合う味は何とも言えません。はじめはそのまま食べて、途中でお酢をかけて味を変え、最後にはウスターソースをかけて食べるのが地元流だと教わりました。

 長崎は昔からさまざまな国の人たちが住む、多国籍都市です。海の幸、山の幸、畑の幸をミックスして味わう「ちゃんぽん」は、まさに国際都市長崎を代表する郷土料理だと思います。皆さんもぜひ一度味わってみてください。

ちゃんぽん



皿うどん

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