学校長コラム「学校長の一膳講座」

「海軍カレー」

2019年10月16日(水)

 この秋は9月、10月と大型台風が日本を直撃し、多くの犠牲者や被災者が出てしまいました。一日も早い復旧復興が望まれます。皆様はご無事でしたでしょうか。本校も台風19号の影響により、10月12日・13日に予定していた学園祭を、11月23日・24日に延期することといたしました。

 台風が去った後の東京は急に冷え込みが強くなり、一気に秋になりました。朝晩は寒さを感じます。今回は、すっかり日本食として定着してきた「カレー」についてのお話です。

 ご存じの通りカレーはインド料理です。それが日本に普及したのは明治の後期、イギリス海軍から日本の海軍に伝わったのがそのはじめと考えられています。長期間洋上勤務する海軍では、米・肉・野菜という栄養バランスに優れた食品である「カレーライス」を兵食として取り入れました。そのため、日本国内でのカレーライスは、この海軍カレーがルーツになっているといわれています。現在でも海上自衛隊では曜日感覚を失わないように、毎週金曜日にカレーを食べる習慣が残っています。

 明治41年の「海軍割烹術指南書」に記載されている当時のレシピでは、牛肉または鶏肉を使い、野菜は玉ねぎ、にんじん、ジャガイモの3種類。これらをすべて食べやすいさいの目に切ります。小麦粉をヘッド(牛脂)であめ色になるまでよく炒めてからカレー粉を加え、とろろ汁くらいの濃さになるよう水で薄め、具材を入れて煮込んだら出来上がりです。このレシピで作ると、小麦粉を使っているので液状(しゃばしゃば)のインドカレーとは違い、とろみのついたカレーになります。ここがインドのカレーとの大きな違いです。とろみのついたカレーは揺れる船の上ではこぼれることもなく食べやすかったようです。私も当時のレシピのカレーを食べてみましたが、具材が小さくて食べやすく、適度にとろみのあるカレーで、今ほどは辛さを感じませんでした。おそらく明治の日本ではそれほど辛い食品はなかったでしょうから、これでも十分辛い食べ物だったと思われます。

 国内には長崎県佐世保市、広島県呉市、京都府舞鶴市などに海軍の基地がありましたが、海軍カレーを一躍有名にしたのが、神奈川県横須賀市です。この町では平成11年に「カレーの街よこすか」を宣言し、海軍カレーで町おこしをしています。市内にはたくさんのカレー屋さんがその腕を競い、また昔のレシピで再現された「よこすか海軍カレー」のレトルト商品がたくさん開発されています。
 現在でも海上自衛隊の基地がある横須賀。みなさん、日本のルーツである「海軍カレー」を味わいに、一度横須賀を訪ねてみてはいかがでしょうか。

サラダと牛乳、海軍珈琲がついてきます



「冷やし中華」

2019年09月19日(木)

 夏を代表する食べ物の一つに「冷やし中華」があります。「中華」というからには、これは中国から来た料理だと思っていましたが、なんと冷やし中華は日本人の発明品です。

 冷やし中華が初めてお店に登場したのは、昭和12年の秋、仙台市で今も営業している「龍亭」がその元祖だといわれています。その発端は、冷房のない当時、炒め物など油が強く熱々の中華料理は冬には人気がありますが、暑い夏には売れなくなってしまうため、「夏でもお客さんに来てもらえるよう」に知恵を絞って、冷たい中華麺料理を開発したのが始まりのようです。

 中国にも、「涼伴麺(りゃんばんめん)」という冷たい麺があります。これが冷やし中華のルーツと考えられていますが、その大きな違いは、「麺を水でよく洗う」こと。麺を水洗いすることでツルっとした独特の食感が生まれます。麺を冷水でしっかり水洗いして腰をだすのは、日本そばの手法で、おいしい水がふんだんにある日本ならではの手法のようです。また、もう一つの違いは、中国の涼伴麺はゴマだれが主流ですが、冷やし中華のたれはさっぱりと酢醤油が使われていること。中国では酸味のある食品は「腐敗」を連想させ、あまり一般的ではありません。(やがて冷やし中華にもゴマだれが登場しますが、それはずっと後のことのようです。)

 上に乗せる具材も、焼豚やハムなどの肉類に、トマト、キュウリ、もやし、ワカメ、錦糸卵など野菜をたくさん使い、薬味として紅しょうがをつかうなど、どんどん日本式に進化していきました。

 このように、日本人は昔から他国の文化を上手に取り入れることに長けています。今ではこの日本発の冷やし中華が、本場中国や台湾では「日本式涼伴麺」「日式中華涼麺」などとして人気を博しています。

 同じ東北地方の山形県では、「冷やしラーメン」が有名ですが、これは冷やし中華とは全く違い、見た目は汁のたっぷりある普通のラーメンで、酸味のない冷たいスープが特徴です。盛岡の冷麺といい、山形の冷やしラーメンといい、東北地方の人々は冷たい麺に対する思いが強いようですね。今度仙台を訪問したら、ぜひこの元祖冷やし中華を味わってみたいと思っています。

 皆さんの冷やし中華の好みは、酢醤油ですか?それともゴマ風味ですか?

「水茄子」

2019年08月27日(火)

 厳し暑さもようやく峠を越えました。皆さんこの夏はいかがお過ごしでしたでしょうか?

 夏を代表する野菜には、きゅうり、トマト、茄子などがあります。これら夏に収穫される野菜は、食べると体を冷やしてくれるという効果があり、昔から珍重されてきました。その中で今日は茄子のお話しです。

 茄子はインド原産の野菜で、日本では奈良時代から食されていました。正倉院に保管されている奈良時代の書物に、茄子を献上したという記録があることでも明らかです。ヨーロッパに茄子が伝わったのは13世紀頃ですので、日本の方が500年以上も昔から茄子に親しんできたようです。紫色の茄子の皮はポリフェノールが多く含まれ、また身にはビタミンAが多いので、身体によい野菜の一つです。ちなみに、紫色の茄子を好んで食べるのは、日本をはじめアジア地方だけらしく、欧米では薄緑や白い茄子の方が一般的だそうです。茄子が英語でEgg Plant(たまご野菜)と訳されているのも、それが理由のようです。

 一般の茄子は皮がしっかりとして、身にアクがあるので、炒め物や煮物に使われることが多いのですが、1,000種類以上ある茄子の中で、唯一生で食べられるのが「水茄子」です。水茄子は皮が薄く、しかも手で絞るとあふれ出るほど水分を含んでおり、生のままかぶりつくことができます。その水分は甘みがあり、かつて農家の人が作業中にこの水茄子を絞って喉の渇きを癒したといわれるほどです。一説には、水茄子の語源が「みつなす」(蜜のようにあまい水分がある茄子)だともいわれています。

 水茄子の特産地は、大阪府の南部。この付近は江戸時代「和泉国(いずみのくに)」と呼ばれており、別名を泉州(せんしゅう)といいました。今でも水茄子は「泉州水茄子」といわれ、大阪の郷土野菜である「なにわ伝統野菜」に認定されています。

 水茄子は、そのままスライスしてお刺身のように食べることができますが、やはり一番おいしい食べ方は「漬物」でしょう。水茄子を塩で浅漬けするか、ぬか漬けにして、辛子醤油でいただくと、お酒の肴としてもご飯のお供としても最強なお漬物です。

 私も初めて水茄子に出会ったとき、勇気をもってそのまま丸かじりして、その風味とほんのり甘い水分に驚きました。いまではすっかり水茄子のファンになり、夏になると水茄子の浅漬けが出回るのを楽しみにしています。この、生でも食べられる珍しい茄子を、皆さんもぜひ試してみてください。

「箱寿司」

2019年07月29日(月)

 「すし」といえば「握り寿司」を思い浮かべますが、それ以外にもたくさんの種類のすしがあります。今日はその中の一つ、「箱寿司」についてお話しします。

 「箱寿司」とは「押し寿司」の一種で、大阪で生まれました。その作り方は、ご飯とネタを木枠の中に何層か重ねて、上から手で押し込んで作ります。江戸前握り寿司との一番の違いは、その場で食べるのではなく、持ち帰りなどしばらく時間をおいてから食べるように調理されているという点です。そのため、ネタは酢締め、煮上げなどの加工がされており、すべて味付けされています。また、シャリ(ごはん)も昆布だしで炊き上げ、砂糖をたくさん入れたお酢を合わせて作られており、保存性を高めています。

 写真は大阪市内で100年以上続く「寿し寅」というお店の箱寿司です。寿司ネタ(具材)は、左から「鯛」「海老」「穴子」ですが、どれもとても手がかかった仕込みがしてあります。鯛は甘めな酢でしっかりと酢締めがされています。まず木枠にご飯を入れ、その上に海苔を一枚敷いてさらにご飯を重ねます。そして一番上に酢締めの鯛と白板昆布(少し厚めの削り昆布)を載せ、上から押し込んであります。海老も下に甘辛く煮た椎茸を刻んだものが入った二層のお寿司。穴子は江戸前の「ふっくら」とは違う、「しっかり」とした食感に仕立ててあり、押し込まれることでご飯との一体感がとてもでているという印象でした。箱寿司を作るとき、かなり力を入れて2回・3回と押し込みますが、その割にご飯が「おにぎり」のように潰れていません。聞いてみると、その秘訣は「炊きたてのご飯にお酢を合わせた後、ゆっくりと時間をかけて冷ますから」だそうです。そうすると、お酢がお米の芯までしっかりと浸透するので、多少の力をかけてもつぶれにくくなるそうです。でもきっとご飯がつぶれないような押し方があるのではないかと思いました。そこが「職人技」なのだと思います。

 このようにご飯とネタを重ねて押し込んで作る「押し寿司」。箱寿司以外にも、大阪の「バッテラ(鯖をご飯の上に乗せ、枠に入れて押した寿司)」や奈良の「柿の葉寿司(鯛や穴子を酢飯に乗せ、柿の葉で包んで押したもの)」、富山の「ます寿司」、京都の「鯖寿司」などが有名です。押し寿司は関西圏から西日本に多くみられます。そもそも「すし」の起源とは、魚を保存するためにお米と一緒に重石をおいて漬け込んだ「熟れ鮓(なれずし)」という食品で、平安時代にはすでに作られていました。現在でも「鮒の熟れ鮓」は滋賀県の郷土料理になっています。そういう意味で、「お米」「ネタ」を合わせてしっかりと押し込む「押し寿司」は、江戸前握りよりもずっとそのルーツに近いすしということでしょう。

 本校では主に江戸前握りを中心に授業をしていますが、日本全国にはまだまだたくさんの美味しい「すし」があります。この一膳講座でも、これから少しずつ紹介したいと思います。

「寿し寅」の箱寿司 1人前


使い込んだ木型で押して作ります