学校長コラム「学校長の一膳講座」

「初がつお」

2019年05月14日(火)

 この時期になると、お魚屋さんにはたくさんの「かつお」が並びます。昔から「目に青葉、山ホトトギス、初がつお」と言われ、新緑が萌え、ホトトギスが鳴き出す季節に出回る初がつおはとても人気の食材です。今日は「初がつお」についてお話しましょう。

 かつおはサバと同じ種類の魚で、主に太平洋の水温が19度~23度という温かい水域に棲んでいる魚です。春になり、水温が上がってくると黒潮に乗って鹿児島、四国、関東、東北という順に餌を求めて北上してきます。この時に水揚げされるのが「初がつお」です。まだ発育途中なので割合脂が少なく、さっぱりとしているのが特徴です。そのままお刺身で食べてもおいしいのですが、藁を燃やした上にその身をかざして表面を軽く炙り、しょうが、にんにく、夏野菜の代表であるミョウガなどを薬味にしてポン酢で食べると、美味しさが倍増します。(この調理法を「かつおのたたき」といいます)。表面に火を通すのは、かつおの皮目にいるアニサキスなどの寄生虫を駆除するためといわれていますが、炎で炙ることでほんのりと燻製のような風味が付きます。あまり火が入りすぎると身がパサついてしまうので、炙った後はすぐに氷水のつけるのが一般的です。

 江戸時代、武士の町であるお江戸では、「かつお」は「勝つ魚」として縁起の良い魚といわれていました。そのため、江戸っ子は「初がつお」を競うように食べていたようです。特に旬の走り(出始め)のかつおはとても高価で、「まな板に 小判一枚 初がつお」という俳句もあるほどでした。もう少し待てば値も安定して手に入りやすくなるはずですが、粋なことが大好きな江戸っ子たちは、「安くなってから食べるなんて野暮だ」とばかり、時には借金をしてまで食べたといわれています。昔から日本では「初物を食べると寿命が75日延びる」と言われていました。そんな縁起担ぎを信じていたのかもしれませんね。

 餌を求めて北上したかつおは、たっぷりと餌を食べ、丸々と太り脂ものってきます。そして水温が下がってくる9月頃から南下を始めます。この時に水揚げされるかつおは「戻りがつお」と呼ばれ、マグロやブリにも負けないほど脂がのっていて、「トロかつお」といわれるほどです。

 このように、かつおには「さっぱりとした春の初がつお」と、「脂がのった秋の戻りがつお」という、年に2回の旬があります。どちらもそれぞれの美味しさがあります。ちなみに、和食に欠かせない「かつお節」の原料になるのは、脂の少ない「初がつお」の方です。私の好みはさっぱりとした「初がつお」。たたきにしたかつおを、辛口の日本酒と一緒に食べると、とても幸せな気分になります。「日本人に生まれてよかった」と思う瞬間です。今年もたくさん楽しんでいます。皆さんは、どちらの時期のかつおが好きですか?是非食べ比べをしてみてくださいね。

「江戸・東京野菜」の話

2019年04月17日(水)

 今までこの講座で地方のさまざまな郷土料理を取り上げてきましたが、今回は東京に注目してみましょう。

 日本各地には、その土地柄を反映した食材があります。九条ネギや聖護院大根などの「京野菜」、金時草や加賀れんこんなどの「金沢野菜」などが有名ですね。実は東京にも昔から栽培されてきた特徴的な野菜類がいまも収穫されています。それらを総称して「江戸・東京野菜」と呼んでいます。

 例えば、東日本でお正月の雑煮に欠かせない「小松菜」もその一つです。小松菜の名前の由来には面白い話があります。江戸中期の第8代将軍、徳川吉宗公が鷹狩りに出かけ、小松川村(現在の江戸川区小松川)にある亀戸香取神社で休息をしました。その時、神社の神主が名もない地元の青菜を入れた雑煮を振舞ったところ大変おいしかったので、吉宗公が地元の名を取って「小松菜」と命名したというお話です。現在スーパーで出回っている小松菜は、より茎を太く、葉を大きくするため、新種との交配がされていますが、今でも一部の農家では当時のままの小松菜を「伝統 小松菜」として栽培しています。

 本校がある東京世田谷区にも、「大蔵だいこん」という、江戸時代から続く伝統野菜があります。(写真をご覧ください) 大蔵だいこんは、一般に売られている青首大根に比べて、真っ白で寸胴な大根で、見た目にも大きな違いがあります。その特徴は身質がしっかりしていること。私も一度試食しましたが大根の繊維質が詰まっていてしっかりとした大根で、煮物に使ってもほとんど煮崩れしません。しかも歯ごたえがしっかりあり、おでんの具材などにはうってつけの大根です。この大蔵だいこんは、一度絶滅してしまいましたが、昭和の後半に地元の農家の人が復活させたそうです。

 現在江戸・東京野菜に認定されているのは49種類もあるそうです。それぞれに特徴があり、料理人から見てもとても面白い食材で、日本橋にはこれらの野菜だけでコース料理を提供する店もあります。本校でも今年の授業で「江戸東京・伝統野菜研究会」の大竹代表をお招きして、学生にこれらの食材を使った調理を体験してもらう予定にしています。江戸・東京野菜に興味のある方は、ぜひこちらをご覧ください。

 皆さんも、ぜひ自分の住んでいる地域の伝統的な食材に目を向けてみてください。きっと新しい発見があると思います。

http://www.city.setagaya.lg.jp/kurashi/101/116/302/303/d00019122.htmlより引用

姫路名物「穴子寿司」の話

2019年03月19日(火)

 兵庫県の姫路と言えば、「姫路城」が有名ですね。この城は1346年(室町時代前期)に建てられた名城で、その後何度か改築を繰り返し、現在では国宝や世界無形文化遺産にも登録されています。

 食の分野で有名なのは、「そうめん」。市内を流れる揖保川の上流は国内有数の小麦産地。下流には塩づくりで有名な赤穂(江戸時代「赤穂浪士」の話で有名ですね)があります。この小麦と塩、そして揖保川に流れ込む、金属成分の少ない伏流水(軟水)を使い、「揖保の糸」という有名なそうめんが作られています。また、麦と塩と水は「醤油」の原料。揖保川が流れる播州平野の龍野という町に、淡口醤油で有名な「ヒガシマル醤油」の本社・工場があり、400年も前から醤油作りが盛んにおこなわれています。

 今回姫路を訪問し、もう一つ忘れることのできない食の名物を発見しました。それは姫路の「穴子」です。姫路市と四国、そして淡路島に囲まれた瀬戸内海の「播磨灘」は、穴子の産地として有名で、特に明石海峡と播磨灘の急流が生む良質な砂地で育った穴子は肉厚で臭みが全くなくとても良質です。江戸時代、穴子の産地と言えば、東は「江戸前(東京湾)」、西は「姫路・明石・淡路島」と言われるくらい有名だったそうです。近海でとれた穴子を、地元のヒガシマル醤油を使った煮切りで美味しく焼き上げた「姫路の穴子」は、まさに播州地方を代表する郷土料理だと思います。

 地元での穴子の楽しみ方は「焼き穴子の棒寿司」「穴子丼」「穴子の握り寿司」などがありますが、今回は穴子の身質を比べるため、東京と同じように「蒸し穴子」に調理するお店で、「穴子の握り寿司」を食べてみました。写真をご覧ください。

 大振りの穴子の握りが6貫、お皿の上に載っています(これで穴子1本分だそうです)。やはり地元の淡口醤油を使っているため、色はあまり濃くないようですが、味はしっかりとしていました。その身は肉厚で、ふんわりと口の中でとろける美味しさにびっくりです。江戸前の穴子に比べて遜色なし、いやむしろ江戸前穴子より美味しいと感じました。ただ、シャリ(ご飯)はおにぎりのようで、シャリは江戸前握り寿司が圧倒的に美味しいと思います。私の結論として、姫路の穴子寿司は「穴子の旨さを味わうもの」、江戸前の穴子寿司は「ネタ(穴子)とシャリのハーモニーを味わうもの」という風に感じました。皆さんも姫路周辺を訪問したら、ぜひこの「穴子寿司」を試してみてください。

伊勢名物「伊勢うどん」と「手こね寿司」の話

2019年02月28日(木)

 毎年1月に伊勢神宮を参拝します。外宮に祭られる「豊受大御神(とようけのおおみかみ)」は、神々のお食事を司る神様。その神様に学生たちの料理の腕の上達を祈願するためです。その際、伊勢地方の郷土料理である「伊勢うどん」と「手こね寿司」をいただくのを楽しみにしています。

 「伊勢うどん」は、茹でた太めのうどんにたまり醤油をかけたもので、薬味もネギくらいと、とてもシンプルな料理です。このうどんをいただいて驚くことは、とても柔らかいこと。お箸でも簡単に切れてしまうくらいの柔らかさで、コシの強い讃岐うどんと比べると、全く別の食べ物です。濃厚なタレもやや甘めで、この「柔らかさ」と「甘さ」は、今まで食べたことが無い種類の感覚です。

 伊勢うどんがなぜこんなに柔らかいのか、不思議に思ったのでお店の人に聞いてみました。すると、こんなお話が聞けました。伊勢うどんは、「お伊勢参り」と言って全国から集まる参拝客に振舞われた料理の一つだそうです。電車やバスのない昔は、皆長い道のりを歩いて参拝に来たので体力が消耗し、胃腸も弱っているので、消化に良いように柔らかいうどんを、疲れが取れるように甘めのたれで振舞ったのが始まりだそうです。また、別のお店では、参拝客にすぐ提供できるように、常にうどんを熱湯に入れて茹で続けていたので、軟らかくなった、という話が聞けました。確かに讃岐うどんは15分くらいのゆで時間ですが、伊勢うどんは今でも1時間以上茹でているようです。

 伊勢のもう一つの名物が「手こね寿司」です。これは、カツオやマグロの赤身を漬けにして、すし飯に手でこねるように混ぜ込んだお寿司です。この「手こね寿司」は、伊勢から近い海沿いの志摩のカツオ漁師が船の上で食べていた「漁師飯」が起源だそうです。「手こね寿司」は全国各地の漁師町にありますが、志摩の「手こね寿司」が伊勢神宮の参拝客の間で評判になり、伊勢の名物になったようです。

 カツオやマグロの漬けは、醤油の他にも出汁が良く利いて、ねっとりとした感触がとても美味しかったです。この手こね寿司を一口食べた後、甘めの伊勢うどんを一気に啜りあげると、「伊勢神宮に来たなぁ」という実感がわいてくる、まさに伊勢名物の郷土料理です。皆さんも伊勢神宮に参拝したらぜひ食べてみてください。


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