学校長コラム「学校長の一膳講座」

長崎新名物「トルコライス」

2019年06月28日(金)

 前回は長崎名物「ちゃんぽん」のお話をしました。その名の語源通り、いろいろな食材を「ちゃんぽん=混ぜる」する料理で、すでに100年以上の歴史があります。この精神を受け継いだ長崎の新名物に「トルコライス」というものがあります。今回は、このご当地B級グルメ「トルコライス」をご紹介します。

 私が食べたトルコライスとは、ピラフ・とんかつ・スパゲティナポリタンの3種類の料理が一皿に盛り付けられ、おまけにとんかつの上からカレールーをかけた料理です。野菜サラダまで添えてあり、とても欲張りで、かつボリュームのある一皿でした(写真を見てください)。一見してすべて洋食の組み合わせですが、よく考えるとピラフもとんかつもカレーも、その起源は洋食ですが現在では和食の一部となっている料理です。また、スパゲティナポリタンも、日本人が考案した料理です。とにかく、日本人になじんだ洋風和食のワンプレート料理がトルコライスの正体でした。

 ではなぜこの料理は「トルコライス」という名前になったのでしょうか。地元のいろいろな方に伺いましたが、諸説ありすぎでよくわからないのだそうです。ただ一つはっきりしているのは、ヨーロッパにあるトルコ共和国とは何の関連もない、ということ。かつて長崎観光協会の方がこの名前を正式に認めてもらおうとトルコ大使館を訪問したところ、「そもそもイスラム教人口の多いトルコでは、豚肉は食べないので公認はできない」といわれたそうです。

 私が一番驚いたのは、「トルコライスの料理の組み合わせが無限にある」ということでした。ピラフ以外にもバターライスや炒飯でも良いし、とんかつ以外にも牛カツやチキンカツ、ステーキもあります。スパゲティもミートソースやカルボナーラなど、なんでもありだそうです。お店によってはピラフとカレーを合わせてドライカレーにしているところもあります。とにかく「ごはん」「肉」「パスタ」であればなんでもよいとのこと。なぜこんな料理が生まれたのか、地元のお年寄りに伺うと、「長崎は鎖国の時代から中国やオランダなど諸外国と唯一交流していた町。そのため、昔から既成概念にとらわれず、いろいろな違ったものを混ぜ合わせることが得意な『新しいもの好き』な風土がある」のだそうです。前回ご紹介した、いろいろなものを混ぜる「ちゃんぽん」の精神が、現代でも息づいていることを感じました。

 皆さんなら、どんな組み合わせのトルコライスを作りますか?

九州でいちばん古い喫茶店「ツル茶ん」のトルコライス

長崎名物「ちゃんぽん」

2019年06月20日(木)

 長崎の郷土料理のひとつに「ちゃんぽん」と呼ばれる中華麺があります。海鮮や豚肉、かまぼこなどを野菜と一緒に炒め、鶏がらスープと麺を加えて煮込んでつくる麺類です(写真を見てください)。最近ではちゃんぽんの大手チェーン店もあるので、東京でも食べられるようになりました。皆さんの中にも食べたことがある方がいるのではないでしょうか。

 この「ちゃんぽん」という言葉の語源をご存じですか。ルーツは中国語で「混ぜる」という意味の言葉のようです。ちゃんぽんは「肉・海鮮・野菜などいろいろな具材を混ぜてつくる」というところからこの名前が付いたようです。確かに食べ物以外でもいろいろなものを混ぜるときに「ちゃんぽんする」などと使うこともありますね。特にビール、日本酒、ウィスキーなど、いろいろなお酒を混ぜて飲むときにも、この「ちゃんぽん」という言葉が使われることがあります。「ちゃんぽん」という言葉は、長崎のお隣沖縄県の郷土料理「チャンプルー」とも語源が一緒のようです。

 この「ちゃんぽん」が生まれたのは今からおよそ120年前、明治の中期頃です。中国福建省から長崎に来て「四海楼(しかいろう)」という中華料理店を始めた「陳平順(ちんへいじゅん)」さんが、同じ中国からきていた留学生たちに栄養のあるものをおなか一杯食べさせたい、という気持ちで考案したといわれています。この「ちゃんぽん」は大正時代には長崎名物として、とても有名になりました。ちゃんぽん発祥の「四海楼」は現在でも長崎市内で営業しており、多くの観光客でにぎわっています。

 ちゃんぽんのスープは白濁しているので、よく「豚骨スープ」と間違われるようです。これは通常の中華麺との作り方の違いによるものです。普通の中華麺(ラーメン)は、麺とスープは別々に作り、スープに茹でた麺を入れ、具材を載せて完成させます。そのため、鶏がらラーメンは醤油味でも塩味でも澄んだスープになります。ちゃんぽんは、まず各種の具材をしっかり炒め、そこに鶏がらスープと麺を入れて強火で煮込んで作ります。そのため、具材のエキスがスープに溶け出して白濁するそうです。この炒めた具材とスープに餡をかけ、麺の上にかけた料理が「皿うどん」という、もう一つの名物料理です。皿うどんは、茹でた太麺、細麺、油で揚げたぱりぱりの麺など、いろいろな種類があります。私の好みは「揚げた細麺」です。パリッとした触感と、旨味にあふれた餡が混ざり合う味は何とも言えません。はじめはそのまま食べて、途中でお酢をかけて味を変え、最後にはウスターソースをかけて食べるのが地元流だと教わりました。

 長崎は昔からさまざまな国の人たちが住む、多国籍都市です。海の幸、山の幸、畑の幸をミックスして味わう「ちゃんぽん」は、まさに国際都市長崎を代表する郷土料理だと思います。皆さんもぜひ一度味わってみてください。

ちゃんぽん



皿うどん

「おばんざいと京漬物」

2019年06月17日(月)

 京都の郷土料理のひとつに「おばんざい」と呼ばれるものがあります。これはいわゆる京都の日常家庭料理のことで、漢字では「お番菜」と書きます。この「番」というのは、「日常の」「普段の」という意味で、普段家庭で飲むお茶を「番茶(ばんちゃ)」ということでもわかります。

 おばんざいは、旬の素材、手近な食材を、手間をかけずに使い切る生活の知恵から生まれました。この時期だと、「筍の炊いたん」( “炊いたん” とは京都弁で “煮物” という意味)や、「ジャコと万願寺とうがらしの炊いたん」、「菜の花とお揚げさん(油揚げ)」、「いわしの梅煮」などがおいしいですね。京都のおばんざい屋さんの多くは、カウンターの上に大皿を置き、そこに様々なおばんざいを並べてあります。お客さんはそれを見て注文する形が多いようです。

 私のおすすめは「卯の花の炊いたん」。卯の花とは「おから」のことで、豆腐を作る過程でできる搾りかすのことです。これに椎茸やうすあげ(薄い油揚げ)、人参、こんにゃくなどを細かく切って加え、京都ならではの美味しい昆布だしと薄口醤油で炊き上げます。実山椒などが入ると一層風味が引き立ち、とても美味しい一品です。

 おばんざいに欠かせない「京野菜」は、京漬物の食材としても有名です。京都の三大漬物は「千枚漬け」(聖護院大根をカンナで薄くスライスし、昆布や酢、みりんなどと一緒に付け込んだもの)、「しば漬け」(京茄子や茗荷などを赤いしその葉と一緒に漬けたもの)、「すぐき」(蕪の一種であるすぐき菜を塩で漬け込んだもの)といわれています。特に「すぐき」は乳酸発酵のためその旨味と酸味が絶妙です。漬物といえば主に寒い冬が最盛期で種類も豊富ですが、春には菜の花や筍のお漬物、夏には万願寺とうがらしや壬生菜のお漬物など、一年を通して楽しめます。

 京漬物はそのまま温かいご飯と頂いてもおいしいのですが、お茶漬けで食べるとその旨さが倍増します。京都市内の千本通りにある老舗「近為(きんため)」にはお茶漬け席があり、季節の京漬物の数々を、お茶漬けとして味わうことができます。このお店ではお茶漬けを煎茶ではなく玄米茶で提供しています。私は玄米茶のお茶漬けをこのお店で生まれて初めて味わいました。とても香りがよく、漬物の酸味がより引き立ってとても美味しいお茶漬けでした。このお茶漬け席では、漬物以外にもお魚の粕漬けや白みそ仕立ての京都流のお雑煮なども一緒に味わうことができます。

 おばんざいも京漬物も、とても上品な味で京都ならではの伝統郷土料理といえるでしょう。機会があれば、ぜひ味わってみてください。

「カメの手」

2019年05月31日(金)

 皆さんは、「カメの手」という生き物を知っていますか?

 下の写真を見てください。カメの手は、海の岩場に生息する生き物で、フジツボや牡蠣のように岩の隙間などに張り付いて群生しています。見た目が「亀」の手に見えることから、この名が付きました。見るからにグロテスクで、とても食べられないと思いますが、実はこれがとても美味しいのです。

 日本各地で見つかりますが、主に四国や瀬戸内海沿岸の地域では昔から食用として珍重されています。旬は5月から8月、まさにこれから美味しくなる食材の一つです。国内で昔から食べている地域では、そのまま味噌汁の具材として使われることが多いようです。カメの手だけでとても美味しい出汁が出ます。それもそのはず、このカメの手は実はエビやカニの仲間(甲殻類)なのです。私が食べたのは、取ってきたばかりのカメの手をシンプルに塩ゆでしたもの(写真参照)。固い殻の下にある柄の部分を剥くと、中からピンク色の身が出てきます。それをつまんでそのまま食べます。伊勢海老とタラバガニを合わせたような味で、とても美味しかったです。 国内では珍味といわれるカメの手ですが、アジアでこれを食べるのは日本だけです。あらゆる食材を果敢に食べるお隣の中国でも、食用にされていないと聞いています。でも、驚いたことにヨーロッパのスペインでは「ペルセベス」という名前で流通しており、高級食材として食用にされています。実はわたくしが食べたのも、スペインのお隣のポルトガル。首都のリスボンにあるシーフード専門店でした。ポルトガルは、ヨーロッパでいちばんお魚を食べる国といわれており、国民一人当たりの魚介消費量が最も多い国です。また、大航海時代にマゼランやバスコ・ダ・ガマなどがアジアから初めてお米を持ち帰った国とのことで、お米もいろいろな調理法で食べられています。

 魚とお米、とくればやはり「お寿司」ですよね。ポルトガルにはたくさんのお寿司屋さんや和食店があり、日本料理が他の国に負けず大ブームになっています。本校では、今年4月よりリスボン市内の伝統ある料理学校と教育提携を行い、同校に本格的なすしと和食のコースを開設するお手伝いを始めました。ヨーロッパに初めて、本物の日本料理を教える学校が誕生します。海外に行くとまだまだ日本人が驚くような日本料理に出会うことが多いですが、この教育提携を通して、ヨーロッパでも「本物のすしや和食」が調理できる料理人が増えてほしいと願っています。

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