学校長コラム「学校長の一膳講座」

姫路名物「穴子寿司」の話

2019年03月19日(火)

 兵庫県の姫路と言えば、「姫路城」が有名ですね。この城は1346年(室町時代前期)に建てられた名城で、その後何度か改築を繰り返し、現在では国宝や世界無形文化遺産にも登録されています。

 食の分野で有名なのは、「そうめん」。市内を流れる揖保川の上流は国内有数の小麦産地。下流には塩づくりで有名な赤穂(江戸時代「赤穂浪士」の話で有名ですね)があります。この小麦と塩、そして揖保川に流れ込む、金属成分の少ない伏流水(軟水)を使い、「揖保の糸」という有名なそうめんが作られています。また、麦と塩と水は「醤油」の原料。揖保川が流れる播州平野の龍野という町に、淡口醤油で有名な「ヒガシマル醤油」の本社・工場があり、400年も前から醤油作りが盛んにおこなわれています。

 今回姫路を訪問し、もう一つ忘れることのできない食の名物を発見しました。それは姫路の「穴子」です。姫路市と四国、そして淡路島に囲まれた瀬戸内海の「播磨灘」は、穴子の産地として有名で、特に明石海峡と播磨灘の急流が生む良質な砂地で育った穴子は肉厚で臭みが全くなくとても良質です。江戸時代、穴子の産地と言えば、東は「江戸前(東京湾)」、西は「姫路・明石・淡路島」と言われるくらい有名だったそうです。近海でとれた穴子を、地元のヒガシマル醤油を使った煮切りで美味しく焼き上げた「姫路の穴子」は、まさに播州地方を代表する郷土料理だと思います。

 地元での穴子の楽しみ方は「焼き穴子の棒寿司」「穴子丼」「穴子の握り寿司」などがありますが、今回は穴子の身質を比べるため、東京と同じように「蒸し穴子」に調理するお店で、「穴子の握り寿司」を食べてみました。写真をご覧ください。

 大振りの穴子の握りが6貫、お皿の上に載っています(これで穴子1本分だそうです)。やはり地元の淡口醤油を使っているため、色はあまり濃くないようですが、味はしっかりとしていました。その身は肉厚で、ふんわりと口の中でとろける美味しさにびっくりです。江戸前の穴子に比べて遜色なし、いやむしろ江戸前穴子より美味しいと感じました。ただ、シャリ(ご飯)はおにぎりのようで、シャリは江戸前握り寿司が圧倒的に美味しいと思います。私の結論として、姫路の穴子寿司は「穴子の旨さを味わうもの」、江戸前の穴子寿司は「ネタ(穴子)とシャリのハーモニーを味わうもの」という風に感じました。皆さんも姫路周辺を訪問したら、ぜひこの「穴子寿司」を試してみてください。

伊勢名物「伊勢うどん」と「手こね寿司」の話

2019年02月28日(木)

 毎年1月に伊勢神宮を参拝します。外宮に祭られる「豊受大御神(とようけのおおみかみ)」は、神々のお食事を司る神様。その神様に学生たちの料理の腕の上達を祈願するためです。その際、伊勢地方の郷土料理である「伊勢うどん」と「手こね寿司」をいただくのを楽しみにしています。

 「伊勢うどん」は、茹でた太めのうどんにたまり醤油をかけたもので、薬味もネギくらいと、とてもシンプルな料理です。このうどんをいただいて驚くことは、とても柔らかいこと。お箸でも簡単に切れてしまうくらいの柔らかさで、コシの強い讃岐うどんと比べると、全く別の食べ物です。濃厚なタレもやや甘めで、この「柔らかさ」と「甘さ」は、今まで食べたことが無い種類の感覚です。

 伊勢うどんがなぜこんなに柔らかいのか、不思議に思ったのでお店の人に聞いてみました。すると、こんなお話が聞けました。伊勢うどんは、「お伊勢参り」と言って全国から集まる参拝客に振舞われた料理の一つだそうです。電車やバスのない昔は、皆長い道のりを歩いて参拝に来たので体力が消耗し、胃腸も弱っているので、消化に良いように柔らかいうどんを、疲れが取れるように甘めのたれで振舞ったのが始まりだそうです。また、別のお店では、参拝客にすぐ提供できるように、常にうどんを熱湯に入れて茹で続けていたので、軟らかくなった、という話が聞けました。確かに讃岐うどんは15分くらいのゆで時間ですが、伊勢うどんは今でも1時間以上茹でているようです。

 伊勢のもう一つの名物が「手こね寿司」です。これは、カツオやマグロの赤身を漬けにして、すし飯に手でこねるように混ぜ込んだお寿司です。この「手こね寿司」は、伊勢から近い海沿いの志摩のカツオ漁師が船の上で食べていた「漁師飯」が起源だそうです。「手こね寿司」は全国各地の漁師町にありますが、志摩の「手こね寿司」が伊勢神宮の参拝客の間で評判になり、伊勢の名物になったようです。

 カツオやマグロの漬けは、醤油の他にも出汁が良く利いて、ねっとりとした感触がとても美味しかったです。この手こね寿司を一口食べた後、甘めの伊勢うどんを一気に啜りあげると、「伊勢神宮に来たなぁ」という実感がわいてくる、まさに伊勢名物の郷土料理です。皆さんも伊勢神宮に参拝したらぜひ食べてみてください。


「豆まき」の話

2019年02月04日(月)

 今日は「立春」。暦の上では今日から春の季節になります。例年だと「立春」と言ってもまだまだ寒く、まさに「春は名のみの風の寒さ」と歌われた通りですが、東京地方の今年の立春は、4月中旬の暖かさ。ここ数年来なかったことですね。

 立春の前日が「節分」。今年も2月3日が春の節分です。昔から節分というと「豆まき」が恒例行事で、今年もあちこちの寺社仏閣で豆まきの行事が行われました。なぜ節分には豆をまくのでしょうか。

 節分に豆をまくのは、「季節の変り目に現れる邪気を、魔除けの呪力がある穀物の代表である豆で追い払う」という意味があり、室町時代(約700年前)にすでに豆まきの記録が残っています。穀物の代表に豆が選ばれたのは、「豆=魔滅」に通じ、豆が「魔を滅する」という語呂合わせだと言われています。豆をまくときには、「鬼は外、福は内」というかけ声をかけるのが一般的ですが、地方によっては「鬼、外」と言ったり、このかけ声の後に「ごもっとも、ごもっとも」と合いの手を入れたりする風習もあるようです。また、鬼を祭る奈良県の金峯山寺などでは「福は内、鬼も内」というかけ声をかけるそうです。

 豆まきの後に、この豆を歳の数(地方によっては歳の数より一つ多く)食べることで、一年間健康に過ごせると言われています。北海道や東北、北陸、南九州の一部には、炒った大豆の代わりに落花生をまく地方もあるようです。確かにまいた後の豆を食べるなら、その方が衛生的で合理的ですね。

 「全国の渡辺さん、坂田さんの家では豆まきをしない」というのはご存知ですか? 実は、平安時代に先祖の「渡辺綱(わたなべのつな)」と「坂田金時(さかたのきんとき)」という武将が鬼退治をしたという伝説があるからです。そのため、鬼は「渡辺」「坂田」の家には近寄らない、と言われています。確かに、私も小さいころから家で豆まきはした記憶はありません。面白いですね。

 最近は「豆を掃除するのが大変」「掛け声がうるさくて近所迷惑」など言う理由で、だんだん豆まきをする家庭が減っているそうです。せっかく700年以上も続いている風習なので、年に1回の節分くらいは、家々で盛大に豆まきをして邪気を追い払ってほしいものです。

「お雑煮」の話

2019年01月11日(金)

 皆さんは、平成最後のお正月をどのように過ごされましたか?

 1月11日は、関東では「鏡開き」といって、お正月にお供えした鏡餅を割り、ぜんざいやお雑煮でいただく習慣があります。(関西の鏡開きは少し遅く、1月15日です)。そこで今回は、「お雑煮」についてお話しします。

 お雑煮は室町時代くらいからある食べ物で、元々は武士の祝いの膳に出される吸い物でした。時代の移り変わりとともに、正月に歳神様にお供えするお餅を一緒にいただく、正月料理の一つになってきたようです。
 お雑煮も、おせち料理と同様に地域によっていろいろな種類があります。まずお餅ですが、関東では角餅(四角い餅)、関西では丸餅が主流です。この境目は、やはり岐阜・名古屋当たりの東海地方になるようです。餅の形だけではなく、餅を焼くのか焼かない(煮る)のか、などさまざまな地域性があります。四国香川県の高松地域では、甘いあんこの入ったお餅を使うそうです。驚きですね。
 お雑煮といえば「すまし汁」だと思っていましたが、京都・大阪・奈良などの関西地方のお雑煮は、白味噌仕立てです。京都のお雑煮をいただいてみましたが、昆布とかつお出汁に風味のある白味噌仕立ての汁で、焼かない丸餅に日の出を表す丸い人参などをあしらい、かつお節と和辛子が乗っていました。風味が良く、辛子がアクセントになってとても美味しいお雑煮でした。
 山陰の出雲地方では、軟らかく煮た小豆を丸餅に載せ、塩味のすまし汁でいただく「小豆雑煮」というものがあります。これは山陰地方独特の雑煮で、この小豆を甘くしたのが「ぜんざい」です。「ぜんざい餅」は元来出雲神社のお祭りに振舞われた「神在(じんざい)餅」がルーツだそうですが、お雑煮もそれと関係しているかもしれませんね。
 東京生まれの私は、やはり関東風のお雑煮が好きです。かつお出汁の醤油味で、お餅はしっかりと焦げ目がついた四角い焼き餅。具材は青菜と鶏肉、それに三つ葉などをあしらいます。古来江戸は武士の町だったので、青菜と鶏肉は「菜(名)を取(鶏)る」として縁起のよい組み合わせでした。

 今日の2年生の授業は「お雑煮」がテーマです。本校では関東風と関西風、そして出雲の小豆雑煮を調理し、その違いを実感してもらっています。私も関東風を試食しました。具材は焼いた角餅に焼いた鶏肉、野菜は小松菜、人参、大根、椎茸、松葉柚子、それにさなかのすり身の真丈(しんじょう)が入っています。風味もよくとても美味しく出来上がっていました。(下に写真を掲載しています)

 お雑煮一つをとっても、日本の食文化の豊かさが伝わってきませんか?