学校長コラム「学校長の一膳講座」

福岡名物「博多うどん」

2020年08月14日(金)

 福岡県の博多といえば、「博多ラーメン」を思い出す人も多いと思います。豚骨スープで有名な博多ラーメンは海外でも大人気で、いまや日本を代表する「ニュー和食」といっても過言ではありません。でも博多の街ではラーメンよりうどんの方がたくさん食べられているのは、あまり知られていません。今日は福岡名物「博多うどん」のお話です。

 博多うどんの特長は、なんといってもその軟らかさにあります。お箸で持ち上げるだけで切れてしまい、歯を使わずに噛み切れるほどの軟らかさです。一般的に「うどんはコシが命」と思われていますが、以前ご紹介した「伊勢うどん」と同様に、フワフワなほどに軟らかいうどんなのです。

 その具材にも特長があります。いちばん人気のあるものは、ごぼうの天ぷら(ごぼ天)とさつま揚げ(丸天)。それぞれ「ごぼ天うどん」「丸天うどん」と呼ばれ、博多っ子に大人気です。うどんの汁は、多くの店で「あごだし」と呼ばれるトビウオを使った出汁が特長で、薬味に青ネギをたっぷり乗せ、七味や一味唐辛子を振っていただきます。牛肉の甘辛煮をのせた「肉うどん」も人気のメニューです。

 博多うどんが軟らかい理由は、原材料の小麦粉にあります。コシのあるうどんの多くは小麦粉の中でもグルテン成分の多い「中力粉」が使われていますが、博多うどんは醤油づくりにも使われるような、グルテン成分の少ない小麦が原材料になっています。そのためできたうどんはこのように軟らかくなると考えられています。博多ラーメンは「硬め」「バリカタ」「粉おとし」など、硬めの麺を好む博多っ子がうどんだけは軟らかいのを好むのは、私にとっても不思議なことでしたが、お店の人から面白い話を聞きました。それは「博多の人は気が短いから」というもの。通常うどんやそばは注文が入ってから茹でますが、それを待っていられない博多っ子のために、事前にうどんを下茹でしておき、注文が入ったらすぐに湯掻いて提供していたため、軟らかいうどんが好まれるようになったというお話でした。それなら「ラーメンはその場でゆでるから硬め。うどんは下茹でするから軟らかめ」というのも納得できますね。

 実は博多は日本のうどん発祥の地といわれています。博多は古くから大陸の玄関口として栄えていました。近くにある太宰府には飛鳥・奈良時代から日本の外交を扱う役所である「大宰府政庁」が置かれていました。町中にある承天寺には、鎌倉時代に現在のうどんの製法が伝わったことを示す「饂飩発祥の碑」が建てられています。

 最近では東京でも本場の博多うどんが食べられるお店も増えてきました。このフワフワな「博多うどん」を、ぜひ一度味わってみてください。

博多うどんの名店「うどん平」の「ごぼ天肉うどん」と鳥の炊き込みご飯「かしわ飯」



市内「承天寺」境内にある「饂飩発祥之地」の石碑

「東京の郷土料理」

2020年07月30日(木)

 いままでこの一膳講座で全国の郷土料理をご紹介してきましたが、東京にも郷土料理があります。今日は東京の郷土料理をご紹介しましょう。

 東京の郷土料理として代表的なものは、やはりなんといっても「江戸前握り寿司」です。今や世界的に有名となった「握り寿司」ですが、そのルーツは江戸、すなわち東京です。握り寿司は江戸時代の終わり頃、東京の浅草で誕生しました。「江戸前」とは東京湾のことで、江戸時代東京湾ではたくさんの魚やアサリ・ハマグリ・アオヤギなどの貝類が獲れました。いまでも「江戸前アナゴ」は高級な食材として珍重されています。これらを使って誕生したのが「江戸前握り寿司」です。また、たくさん採れた「海苔」を浅草紙という和紙の製法を使って四角く成型し、海苔巻きなども作られました。

 現在では「握り寿司」は日本食を代表する料理として世界中で有名になってしまい、日本全国に有名店がありますので、あまり東京の郷土料理という感じがしませんよね。そこでもう一つ、もっとローカルな郷土料理をご紹介します。それは「深川めし」です。

 深川めしとは、隅田川の河口付近である深川地域の料理たちが賄い飯として食べていたもので、江戸前で獲れたアサリやバカガイなどを江戸甘味噌の汁で煮て、江戸東京野菜である千住葱などを加えてご飯にかけて食べる、いわゆる「ぶっかけめし」のことです。とても手軽にできて栄養も豊富な料理で、気の短い江戸っ子にはうってつけの料理だったと思われます。

 この深川めしをお弁当などで持ち運べるように、炊き込みご飯にしたものもあります。炊き込みご飯とぶっかけめしを区別するため、炊き込みご飯を「深川めし」、ぶっかけめしを「深川丼」と呼ぶこともあります。

 最近では、東海道新幹線の乗客に向けたお弁当として、東京駅や品川駅で販売されているようです。皆さんも機会があればぜひ味わってみてくださいね。

中央がぶっかけめしの「深川丼」左が炊き込みタイプの「深川めし」

太宰府名物「梅が枝餅」

2020年07月18日(土)

 今回は福岡県にある太宰府天満宮のお話です。

 太宰府天満宮は、京都の北野天満宮とともに、全国の天神様の総本山です。ここに祭られているのは、学問の神様として有名な「菅原道真」公。そのため、毎年受験生がたくさん参拝に来ることで知られています。私が訪問したのも、今年の1月。コロナ騒動の前でしたので、多くの学生さんたちが本殿に列を作っており、合格祈願の絵馬がたくさん奉納されていました。

 この太宰府天満宮の名物のひとつに「梅が枝餅」があります。これは小豆餡を薄い餅の生地で包み、梅の形をした刻印のある鉄板で焼いた菓子です(写真をご覧ください)。太宰府天満宮の参道や境内には、梅が枝餅を売っているお店が15店以上も並んでいます。有名なところでは「かさの家」「やす武」「かのや」「甘木屋」などがあります。一見してどこのお店も同じに見えますが、それぞれ材料や作り方が少しずつ違います。皆さんも太宰府天満宮を訪問するチャンスがあったら、ぜひ食べ比べしてみても面白いと思います。値段は共通で、一つ130円です。私も食べ比べをしてみましたが、6件目でお腹がいっぱいになってしまいました。

 太宰府とは、もともと聖徳太子が活躍していた飛鳥・奈良時代から大宰府政庁という役所がおかれていました。当時大宰府は大陸への玄関口として、大陸との外交を担う役所でした。都を追われてこの地に来た菅原道真公を慰めるため、地元の餅屋を営む老婆が、太宰府にたくさんあった梅の木の枝に餅をつけて道真公に差し上げたのが、この「梅が枝餅」のはじまりだといわれています。道真公がなくなった後に、その霊を慰めるために立てられたのが現在の太宰府天満宮です。

 梅が枝餅は、焼き立てを食べるのが一番おいしいと思います。太宰府天満宮の参道では、多くの参拝客が梅が枝餅を頬張りながら歩く姿が目にとまります。時間が経つとややしっとりと軟らかくなってきてしまうので、その時はラップでくるみ電子レンジで20~30秒加熱し、そのあとトースターで焦げない程度に炙ってから食べると焼き立ての美味しさがもどります。お土産などで頂いた時には、ぜひ試してみてください。

参道で一番人気の「かさの家」の梅が枝餅

「そうめん」

2020年07月02日(木)

 7月7日は五節句の「七夕(たなばた)」。正式には「七夕(しちせき)の節句」といいます。毎年この日に「織姫(裁縫の星)」と「彦星(農業の星)」が天の川を隔てて再会する日といわれていますね。この七夕の節句は、中国の風習が奈良時代に日本に伝わってきたもので、笹の葉に願い事を書いて吊るし川に流したりしますので、「笹の節句」とも呼ばれています。

 七夕の行事食は「そうめん」です。これは天の川の流れを映した料理がその起源ともいわれており、夏の暑い時期にはありがたい食材です。日本国内の有名なそうめんの産地は、瀬戸内海の小豆島手延べそうめんや、「揖保乃糸」という商品名で知られている兵庫県の播州そうめん、そして長崎県の島原手延べそうめんなどが有名ですが、奈良県桜井市の「三輪そうめん」が日本のそうめんの始まりといわれています。これはそうめんが奈良時代にこの七夕の風習と同時期に日本に伝わってきたからでしょう。

 そうめん発祥の地である奈良県は、内陸にあり冬はとても寒い地域です。そのため冬にはこのそうめんを温かい汁にいれ、野菜などの具材と煮込む「煮うめん(にゅうめん)」という郷土料理があります。写真は奈良県桜井市で300年以上続く「三輪そうめん山本」でいただいた「ニシンにゅうめん」と、同じく奈良の郷土料理「柿の葉寿司」です。このお店は邪馬台国の女王「卑弥呼」の墓といわれている、箸墓古墳のすぐそばにあります。そうめんはとても細い麺ですが、火を通してもしっかりとコシがあり、美味しくいただくことができます。

 そうめんは小麦粉と塩と水が原材料の麺です。ということは「うどん」と同じ原材料ですね。うどんもそうめんも、小麦粉に塩と水を加えてよく練りしばらく寝かせるところまでは同じですが、その製法が違います。うどんは小麦の生地を薄く伸ばして包丁で切っていきますが、そうめんは薄くした生地の表面に澱粉や油を塗り、包丁を使わずに棒を使って細く長く延ばしてから乾燥させます。これが「手延べそうめん」独特の製法です。そのため、うどんは生麺もありますがそうめんはすべて乾麺(乾燥した麺)として売られています。また、そうめんとよく似た乾麺に「冷や麦」というものもありますが、冷や麦も本来は包丁で切って作っていたので「細切りうどん」ですが、昨今では機械で作ることも多くなったので、日本農林規格(JAS)によって「太さ1.3㎜未満をそうめん、1.3㎜から1.7㎜を冷や麦、1.7㎜以上をうどん」と決めているようです。

 この「そうめんを細く延ばす」技術は、各メーカーが競う職人技です。この「三輪そうめん山本」で最も細い「白髪」という製品は、なんと1本0.3㎜。人の髪の毛3本分くらいしかなく、おそらく日本でいちばん細い麺でしょう。こんなに細くてもしっかりとコシがあり歯ごたえを感じることができます。真っ白で細い流れは見た目にもとても美しく、まさに日本人の美意識が作り上げた逸品と言えましょう。

 皆さんも7月7日の七夕にはぜひ「そうめん」を食べて天の川を見上げてみてください。

「三輪そうめん山本」のニシンにゅうめんと柿の葉寿司



1本0.3㎜の極細そうめん